浦和地方裁判所 昭和53年(行ウ)2号 判決 1983年3月14日
原告 日本熱学工業株式会社 破産管財人 植垣幸雄
被告 川口税務署長
訴訟代理人 松本克己 屋敷一男 高橋郁夫 長沢幸男 三ツ木信行 阿南一徳 外二名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
「1 被告が原告に対し、昭和五〇年五月二八日付でした破産者日本熱学工業株式会社(以下「破産会社」という。)についての別表(一)記載の物品税決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件処分」という。)は、いずれもこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二当事者の主張
一 原告―請求原因
1 破産会社は、昭和五〇年三月一四日大阪地方裁判所において破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。
2 被告は、破産会社が訴外株式会社フジカ(以下「フジカ」という。)と昭和四八年四月一日付で締結した売買基本契約に基づき、フジカから買い受けた石油ストーブ(以下「本件ストーブ」という。)について、原告に対し、昭和五〇年五月二八日付をもって別表(一)のとおり破産会社に対する本件処分をした。
3 原告は、本件処分を不服として、同年七月一五日被告に対し、異議申立てをしたところ被告は同年一〇月七日付でこれを棄却する旨の決定をした。そこで、原告は同年一〇月二二日国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は昭和五二年一一月一四日付でこれを棄却する旨の裁決をし、同裁決書謄本は、同年一二月五日原告に送達された。
4 しかしながら、被告のなした本件処分には法律の適用並びに前提事実の認定を誤った違法があるから、その取消を求める。
二 被告―請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の事実は認める。
2 同4の主張は争う。
三 被告の主張(本件処分の根拠)
1 破産会社は、主として暖冷房、空調設備工事等の施工並びに冷房器具の販売等を営んでいた会社であるが、昭和四八年四月一日付のフジカとの売買基本契約に基づきフジカに対し、物品税法(以下法という。)別表(課税物品表)第二種の物品、番号九、品目4に掲げる課税物品に該当するストーブを右契約書に明記されている製品名(エアロヘルスヒーター)、品質、形状等を指示したうえ、破産会社の商標である「AEROSELL」及び「AERO」(以下「本件商標」という。)を表示させて製造させた。従つて、破産会社は、本件ストーブの製造に関しては法七条一項後段にいう「委託者等」(「みなし製造者」)に該当する。すなわち、
(一) 法七条一項後段にいう商標とは、商標が果している社会的な役割からみて、商品の生産者等が自己の商品を他人のそれと識別する目的で商品に使用する商標法二条一項所定の標章をいい、客観的に自他商品の識別力を有するものでさえあれば周知あるいは著名なものはもとより、登録の有無を問わず商標として観念されるから、本件ストーブに表示されている本件商標が法七条一項後段にいう商標に該当することは明らかである。
(二) 本件ストーブには、破産会社の使用する本件商標のみが表示されそれ以外の商標は表示されていないから、本件商標は、本件ストーブが破産会社の商品であることの識別力を有する商標である。仮に本件商標が破産会社以外の訴外日本空気販売株式会社(以下「日空販」という。)、同エアロマスター株式会社(以下エアロマスター」という。)及び全国の主な都道府県に設置されていたフランチャイジーである三二のエアロセル会社(以下「各地エアロセル」という。)においても社標、社名もしくは商標あるいはその構成部分として使用されていたとしても、次のとおり本件商標が破産会社の商標であることにかわりはない。すなわち、破産会社、日空販、エアロマスター、各地エアロセルは、その設立目的、資本、役員、従業員等の点において密接な関係を持つ一連の企業であり、破産会社は、昭和四七年ころからこれら会社で組織する「エアロ・セル・システム」と称する販売組織(破産会社の子会社であるエアロマスターが製造あるいは開発した商品を破産会社がエアロマスターから買い取り、これをリース会社に売却し、リース会社はこれを各地エアロセルにリース又は販売し、各地エアロセルがこれを最終の需要者にリースもしくは販売し、同じく破産会社の子会社である日空販は当該商品の広告や市場開拓等の販売促進業務を行うことにより、破産会社からシステム使用料を、各地エアロセルから商品売上額の一定割合を、それぞれ受け取るという販売システムである。ただし、昭和四八年ころには、右リース会社を除いた破産会社が直売する方式の販売システムが運用されていた。)を使つて破産会社の商品であるコインクーラー(一〇〇円硬貨を投入すると一時間位運転されるという方式のクーラー)を販売していたが、右コインクーラーにはすべて本件商標が表示されていたことからみて、エアロ・セル・システムは破産会社の商品販売を促進するために開発されたものであり、日空販及び各地エアロセル会社は、破産会社の販売部門というべきものであつた。ところが、エアロ・セル・システムを使つて販売されていた商品は右コインクーラーなど夏期商品に限られていたので破産会社は、昭和四八年に入つて冬期商品として石油ストーブの販売を計画し、後記のとおり検討のすえ完成した本件ストーブをエアロ・セル・システムを通して販売することにした。そして、本件ストーブ販売の際、消費者に交付される取扱説明書には破産会社が本件ストーブの品質を保証すること、本件ストーブの瑕疵については、破産会社が全責任を負うことが明記されているほか、本件ストーブの包装ダンボール箱の表面には、いずれも「AEROSELL」の商標とともに破産会社の会社名が表示されているだけで、日空販、エアロマスター及び各地エアロセルの会社名は本件ストーブの本体には勿論、右説明書、保証書、包装ダンボール箱のいずれにも表示されていなかつた。従つて、本件商標は本件ストーブが破産会社の商品であることを示すために表示されたものといえる。
しかして、法七条一項後段の「自己のみの商標を表示」とは、当該指示者の商標を表示し、表示者以外の者の商標を表示しないことをいうのであつて、当該商標が他人と共用のものであつても差し支えないものと解されるから、本件ストーブは破産会社のみの商標が表示された物品に該当する。
(三) 破産会社は、フジカに対し、本件ストーブに本件商標を表示すべきことを指示してこれらを製造させた。すなわち、
破産会社の代表取締役(同時にエアロマスターの代表取締役を兼務していた。)であつた牛田正郎は、昭和四八年四月ごろ、エアロマスター取締役富士小山工場技術部長であつた別所清に対して、前記エアロ・セル・システムによつて販売する冬期商品として本件ストーブの開発を命じた。そこで、別所は当時フジカにおいて製造、販売していた「キレーネ」という名称の石油ストーブの構造等(送風機の能力、形態、加湿の方法、加湿熱の放熱箇所及び意匠色彩等)を改良し、同年八月ごろ本件ストーブを破産会社の商品として完成させるとともに、フジカに対し、右改良する箇所とその内容並びに本件商標を表示する銘板の位置等を指示した後、同年九月二〇日ごろ破産会社がフジカとの間で売買名下に前記基本契約(昭和四八年四月一日付)を締結し、フジカは右契約に基づき本件ストーブを製造するに至つた。
ところで、法七条一項後段の商標指示によるみなし製造者の規定は、商標を指示して第二種の物品を製造させる者も、法七条一項前段の製造者の場合と同様に取引そのものが商標指示者に支配される関係が存在し、通常の製造者と卸売業者間の取引に比して低れんな価格で取引が行われているのが通常であることのほか、商標のもつ社会的な役割からみて商標指示者は、当該商標を表示した商品を自ら製造した商品と同様に販売することになり、消費者においても当該商品を商標指示者の製品と認識して購入するのが実情であることから、当該物品に表示された商標の指示者を納税義務者とすることにより、徴税の確実及び課税の公平を期するとともに、商標による表示と一般消費者の右認識とを一致させている。従つて、法七条一項後段の「製造」の委託者と受託者の法律関係が売買であるか又は請負であるか等によつて右規定の適用が左右されるものではない。
本件の場合、破産会社はフジカに対し、本件ストーブに自己の商標である本件商標を表示することを指示してこれらを製造させたのであるから、破産会社及びフジカは、それぞれ法七条一項にいう委託者等に該当する。
2 フジカは、破産会社との前記契約に基づき破産会社の指示に従つて昭和四八年九月四日から昭和四九年五月一五日までの間に本件ストーブの製造場所であるフジカ川口工場(埼玉県川口市栄町一丁目一四番一四号)から別表(二)<1>欄記載のとおり合計二万一一五七個の本件ストーブを同表移出先欄記載の各地エアロセルや破産会社の指定倉庫等に移出した。
第二種の物品に係る物品税の納税義務は、当該物品が製造された製造場から移出された時に成立し、右の移出とは「課税物品を製造場から他の場所へ移動させる事実行為をいうのであり、売買、贈与等の法律行為を伴う場合に限られないもの」(最高裁昭和三三年七月一六日第二小法廷決定)と解されるから、本件ストーブをその製造場であるフジカ川口工場から搬出したことが移出に当たる。
3 従つて、破産会社は、本件ストーブ合計二万一一五七個につき、法七条一項後段のみなし製造者として物品税の納付義務を負うところ、被告に対し、本件ストーブの移出につき法二九条二項に規定する納税申告書を提出しなかった。
4 そこで被告は、別表(一)の課税標準額欄及び物品税欄記載のとおりの課税標準額及び物品税の決定を行い、更に同表無申告加算税欄記載のとおりの無申告加算税を附加して、破産会社の破産管財人である原告に対し本件処分をした。
課税標準額は、法一一条一項二号により当該物品の通常の卸取引関係において存在する適正な市場価格(これを「通卸価格」という。)によつて算定すべきものと解されるところ、本件ストーブの場合、製造者たる破産会社の各地エアロセル等に対する仕切価格は一個当たり金三万五八八〇円であるから、この額を物品税相当額を含んだ額とみて、これら物品税額を控除すると本件ストーブの一個当たりの課税標準額は、別表(一)のとおり金三万一二〇〇円となる。
また、本件ストーブの一個当たりの販売価格は、前記のとおり金三万五八八〇円であり、破産会社のフジカからの仕入れ価格が一個当たり金二万八五〇〇円であるから、物品税を控除した後の差益が金二七〇〇円にしかならず、そのため原告主張のように諸経費を差し引くと赤字になるようなことがあつたとしても、そのことは破産会社の価格の設定、商取引政策上の問題であつて、そのことから被告の算定した課税標準額が違法となるものではない。
四 原告―被告の主張に対する認否
1 被告の主張1の事実につき
(一) 冒頭部分は否認する。
(二) (一)のうち、本件ストーブには、三〇〇個を除き被告主張の商標が表示されていることは認め、その余は争う。右三〇〇個についてはフジカの製品名である「キレーネ」が表示されていた。
(三) (二)のうち、昭和四七年ころから、エアロ・セル・システムによつてコインクーラーが販売されていたこと、本件ストーブは右販売システムの冬期商品として販売されていたことは認めるが、その余は否認し、その主張は、争う。「AEROSELL」は、日空販又は各地エアロセルの社標又は社名の構成部分であり、「AERO」は、エアロマスターの商標又は商標の構成部分であつていずれも破産会社の商標ではないし、仮に破産会社の商標でもあつたとしても、法七条一項後段にいうところの「自己(破産会社)のみの商標」には該当しない。破産会社は、本件ストーブを直接消費者に販売する立場にはないから、その販売を扱う日空販及び各地エアロセルが本件ストーブの販売を行うための便宜上、右各会社の社標、社名もしくは商標あるいはその構成部分が本件ストーブに表示されたのである。なお、各地エアロセルは、日空販を介した破産会社の得意先であつて子会社ではないし、日空販は我国の有力な企業三〇社が各一〇〇〇万円宛出資して設立された資本金三億円、取締役には我国一流の財界人が就任している会社であつてこれまた破産会社の子会社という関係にない。
(四) (三)のうち、破産会社がフジカとの間において、昭和四八年四月一日付で本件ストーブに関する売買基本契約を締結したことは認めるが、その余は否認し、その主張は争う。破産会社とフジカとの右契約は、実質上も形式上も売買であつて製造委託契約ではない。破産会社は右契約締結当時フジカにおいてすでに製造、販売されていた本件ストーブと同一型式のフジカ製ストーブ「キレーネ」を日空販又は各地エアロセルに転売する目的で買い受けたのであり、フジカとの売買契約においてはいわば商社的役割を果したにすぎない。右はある会社が業務宣伝又はサービスのために日本専売公社から大量の煙草を買い入れるに当たり、煙草の外箱に自己の会社名を表示させるのと同様である。従つて、本件ストーブの製造者はフジカであつて、破産会社に法七条一項を適用するのは違法であるが、仮に、同条項の適用があるとしても、みなし製造者はエアロマスターである。けだし、本件ストーブは元来エアロマスターにおいて製造すべくその開発が計画されていたものの、時間的な問題もあつてすでにフジカで製造販売していた前記「キレーネ」がエアロマスターの製造する代わりのストープとして採用されたにすぎないからである。従つて、破産会社とフジカとの売買契約は、本来エアロマスターとフジカとの間でなされるべきところ、破産会社が代金の支払につき責任を持つ意味で売買当事者となつたにすぎないもので、製造に関する実質的な指示者ないしは委託者はエアロマスターである。エアロマスターの代表取締役牛田正郎が、破産会社の代表取締役でもあつたという事実から、エアロマスターの右行為を破産会社の行為と解することはできない。
2 同2の事実は否認し、その主張は争う。
3 同3の事実のうち、破産会社が被告主張の納税申告書を提出しなかつたことは認めるが、その余は争う。
4 被告が原告に対し、本件処分をしたことは認めるが、その主張は争う。仮にフジカ川口工場から搬出された本件ストーブのうち、ある程度のものに課税がなされるのは已むを得ないとしても被告の算定した課税標準は過大である。フジカの破産会社(もしくは各地エアロセル等)への本件ストーブの納品価格は一台当たり金二万四〇〇〇円であり、破産会社・フジカ間の売買契約に基づく単価は金二万八五〇〇円であつて、その差額が本件ストーブの物品税額に相当する。従つて、本件ストーブの物品税は、右金二万四〇〇〇円を課税標準としてフジカがこれを負担する旨破産会社に約していた。仮に、被告主張のとおり課税標準を算定すると、破産会社から各地エアロセル会社に対する仕切価格は、一台当たり金三万四八〇〇円であつたから、金二万八五〇〇円の仕入価格に物品税四六八〇円を加算した額と右仕切価格との差額は金一六二〇円にしかならず、この額をもつて、金利、運送賃、保管料等の経費を賄うことは明らかに不可能である。破産会社が当初からこのような赤字になることを前提にした販売計画を立てることは到底考えられない。加えて、本件ストーブの中には、前記のとおり多量の不良品やブロアー(これがない限りストーブ自体を使用できない。)の遡つていないものがあつた。以上のことからすると被告の算定した本件ストーブの課税標準は過大である。
五 原告の反論
仮に、破産会社が法七条一項後段の製造者とみなされるとしても、被告の主張する本件ストーブの移出数量は次のとおりいずれも認定を誤るもので違法である。
1 破産会社がフジカから買い受けた石油ストーブの数量は、<1>昭和四八年九月二〇日ごろ契約した二万個のみであるが、その後右のうち一万個については、同年一二月一五日付で破産会社からフジカ機器販売株式会社(以下「フジカ機器」という。)に、昭和四九年二月五日付で右会社からフジカにそれぞれ転売され、<2>同月一〇日付でフジカから破産会社に売り渡されたのである。
従つて、破産会社とフジカとの間の実質的契約数量は二万個であるから、少なくともそれを超える一一五七個については、破産会社と無関係な移出である。
2 右<1>の契約に基づき、フジカが破産会社に引き渡したストーブの本体は合計一万七九一八個(しかもその中には前記のとおりフジカの「キレーネ」の名称が表示されたもの三〇〇個が含まれている。)しかなかつたうえに、破産会社は昭和五〇年三月二〇日にフジカとの間で右ストーブのうち九五二六個をフジカに返還する旨の裁判上の和解(東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第一〇五〇〇号事件)が成立した。従つて、破産会社と売買契約を解除したことになる右九五二六個については、当初から契約が存在しなかつたのであるから、法七条一項の適用はできないし、ましてや未だ破産会社が引渡しを受けていなかつた製品(二〇八二個)は、法三条二項の「移出されたもの」とはいえない。
そうすると、破産会社がフジカから引渡しを受け、転売していたと解しうるストーブの数量は一万七九一八個から九五二六個を控除した八三九二個を超えるということはない。
3 破産会社がフジカから買い受けたストーブ八三九二個のうちには、フジカから各地エアロセル等に見本品として無償で引き渡されたもの及びいわゆる半端ものといわれる未完成品もしくは不完全品(上面板やボツクス等のないもの、その他更に完成度の低いもの)が含まれているが、見本品については法一〇条二項により法の適用除外となつているし、未完成品もしくは不完全品については法の規定する課税物品には該当しない。
4 また、被告の主張する二万一一五七個のストーブの中には不良品として修繕のためフジカ川口工場にもどし入れられ、修繕のうえ再移出された一五五八個のストーブが含まれているが、この修繕のためもどし入れられたストーブについても、法一〇条三項三号は法の適用除外としている。被告は原告に対し、本件処分をした当時、一五五八個のストーブは修理又は更生のためにフジカ川口工場にもどし入れられたものが再移出されたものであることを知つていながら、これを全く控除しないで処分をしている。しかし、課税物品の移出について申告書を提出しなかつた場合には国税通則法二五条によつて税額等を決定することができる被告が、調査の結果判明した右もどし入れの結果を考慮して税額等の決定をすることができないという合理的な理由がない。
従つて、右一五五八個のもどし入れの結果を計算に入れずになした被告の処分は違法である。
5 被告主張の移出数量二万一一五七個のうち、フジカの納品書及び売上伝票(乙第一七ないし第二七六号証)によつてその移出が裏付けられているものは別表(二)の<2>欄記載の合計一万四八七三個のみであつて、その余の同表<3>欄記載の合計六二八四個については、右伝票によつて移出が明らかにされていない。従つて、右六二八四個については課税することはできない。
仮に、被告主張のとおりの数量のストーブがフジカ川口工場から移出されたとしても、法七条一項後段、三条二項により破産会社が納税義務者になるのは、破産会社・フジカ間の売買契約の履行として移出された物品についてだけであると解すべきところ、フジカは川口工場が非常に手狭であるという事情のほか、製品の一部が未完成品であつたり、ブロアー(排風機)の数量がストーブの本体に見合うだけ製造されていなかつたという専らフジカ又はフジカ機器の事情のために昭和四八年一一月一〇日から昭和四九年五月一五日までの間、破産会社の承諾もないままに破産会社とは何ら関係のない岡葉流通株式会社(以下「岡葉倉庫」という。)に計二四五七個、日本通運株式会社根岸倉庫(以下「日通根岸倉庫」という。)に計九七四個、同丸山倉庫に計三〇七個、同川口支店に八六個、株式会社信興川口倉庫に計一二二八個、三信倉庫株式会社浦和営業所に計八二五個、日本運輸荷造株式会社鳩ケ谷倉庫に一〇八個の合計五九八五個を搬入していた。
このように破産会社の全く知らないうちにフジカ側の都合で川口工場から移出された右五九八五個のストーブについても、破産会社がその移出数量をその月々申告しなければならないとすることは破産会社に不可能を強いるものであり、かつ右五九八五個のストーブについては破産会社の責めに帰することができない移出として法七条四項により破産会社を納税義務者とすることはできないのであるから被告のなした本件処分は違法である。
6 被告主張の二万一一五七個のうち五九八五個は前記のとおり専らフジカ側の都合によつて、岡葉倉庫など七か所の倉庫に搬入されたのであるが、右各倉庫はいずれもフジカ又はフジカ機器が寄託契約を締結し、その保管料を支払つていたほか、右各倉庫において川口工場から搬出されたストーブのうちで未完成品を完成品とする作業も行われていたため、右各倉庫については法一七条の未納税移出の場所として所轄税務署長の承認がなされていた。現にフジカ又はフジカ機器が寄託した前記五九八五個のうち九七四個については、いずれも部品が一部欠落したままの未完成品の状態で日通根岸倉庫に搬入され、同倉庫において組立作業が続行されて完成品となつた。
従つて、被告主張の二万一一五七個のストーブの製造場がすべてフジカ川口工場であつたわけではないから、同工場から搬出された時を右ストーブの移出の時とした被告の認定には誤りがあり違法である。
六 被告―原告の反論に対する主張
1 原告の反論1について
破産会社とフジカ間のストーブの契約数量は三万個であつて二万個ではない。仮に、契約数量が二万個であつたとしても、本件処分に係る本件ストーブの移出数量二万一一五七個の中には一旦移出後フジカ川口工場にもどし入れられ再移出された一五五八個も含まれているから契約数量が二万個であることと移出数量が二万一一五七個であることとは何ら矛盾しない。けだし、課税されるストーブの数量が二万一一五七個となるのは、法が納税義務の成立を売買、贈与等の法律行為の有無とは無関係に当該物品の製造場からの移出という事実にかからしめているところから生ずるからである。
2 同2の事実について
フジカが破産会社に納入したストーブの中に「キレーネ」と表示されたものが含まれていたとしても、本件処分の対象となつたストーブの中には「キレーネ」と表示されたものは一個もなくすべて「エアロヘルスヒーター」・HS―四〇一S型のものであつた。
また、契約解除のなされた物品については、前記のとおり法は課税物品の物理的移動に着目して当該物品が製造場から移出された時にその物品の価格に応じて申告納税すべきことを規定しているのであるから、移出の時に法七条一項の規定する要件を満たしている以上、納税義務者は納期において物品税を納付しなければならないのであつて、この義務がその後に発生した納税義務者の契約解除等の行為によつて消長を来すものではない。もつとも、移出後売買契約が解除されたために製造場にもどし入れられた物品については、法二八条、二九条により、所定の手続を行つた場合に限り、当該もどし入れられた物品に係る物品税相当額の控除又は還付を受けることができるが、仮に、破産会社が、右手続を経たからといつて、右規定により、移出物品に対する納税義務が事後的に消滅することを意味するものではない。
更に「移出」の概念は、前記のとおり、民法の規定する占有の移転とは異なるものであるから、破産会社がフジカからストーブの引渡しを受けているか否かとは関係なしに、破産会社の指示に基づき、同会社の販売先もしくは指定倉庫へ搬出されたものはもとより、継続的な納品を前提として破産会社の承認もしくは同会社への通告のもとにフジカの契約倉庫に搬出されたストーブも法三条二項の「移出されたもの」に該当し、破産会社が納税義務者となる。
3 同3の事実について
法一〇条二項の規定する見本品とは<1>見本品として無償で供与されるもので、<2>見本用にのみ適すると認められるものに限られるのであつて、本件ストーブの中にはこれに該当するものはない、(本件ストーブ中、原告のいう見本品は、いずれも有償で販売された他のストーブと同一性状、構造、機能をするもので、かつ見本品であることの表示もなされていないものであるから、これらについて法一〇条二項の適用はない。)。
4 同4について
本件ストーブの中には、不良品として修繕のためフジカ川口工場へもどし入れられ、更生品として再移出されたストーブ一五五八個が含まれていることは原告主張のとおりであるが、修繕を要するもので修繕のためもどし入れられた物品については、本件ストーブが移出された当時施行の改正前法一〇条三項三号により、もどし入れの際に当該製造場所轄税務署長の確認を受けた場合に限つて法の適用除外となり、再び当該製造場から移出される場合には、物品税が課されないことになつている。しかし、破産会社は、これらストーブをフジカ川口工場へもどし入れる際、被告の確認を受けなかつた。従つて、右ストーブについて法一〇条三項三号(当時)の適用はない。
5 同5について
法七条四項は、例えば課税物品が盗賊により製造場外に搬出された場合のように製造者がその移出につき全く責めを負わない場合に適用されるのであつて、当該移出につき製造者が明示であると黙示であるとを問わず了解している場合、製造者との取引の経過に従つて物品が移動したような場合には適用されない。けだし、かような場合は、製造者は、その移出について全く責めを負わないとはいえないし、更には製造者に納税義務を課してこそ税の消費者への転稼も可能であり、それが物品税の課税の趣旨にも合致するからである。本件の場合、フジカ川口工場から移出された本件ストーブはすべてフジカと破産会社との売買契約に基づく履行として破産会社へそれらを引き渡すために行われたものである。従つて、原告の主張する五九八五個のストーブにつき法七条四項を適用する余地はない。
6 同6について
本件ストーブのうち原告主張の五九八九個が岡葉倉庫など七か所の倉庫に庫入れされた理由や右倉庫の契約者が誰であるかということと本件ストーブの製造場がどこであるかとは関係がないし、破産会社やフジカが右倉庫について法一七条の未納税移出の場所として所轄税務署長の承認を受けていたという事実はない。
また、フジカ川口工場から移出された本件ストーブの本体は、日通根岸倉庫に移出された九七四個を除き未完成品は一個もなかつた。そして、右九七四個のストーブも上面板の取付けを欠くだけのもので、石油ストーブとしての構造、機能及び用途には全く支障のない製品であつたから、すべて法別表第二種の物品、九号4に掲げるストーブに該当するものであつた。本件ストーブの上面板はストーブの上面を覆い調度品としての美観を高める効用を有するにすぎず、それを取り付けることはストーブとしての構造、機能、用途を新たに付与し、ストーブを作り出す行為ではないので法三条二項、七条一項の「製造」には該当せず、従つてまた、その取付けを行う場所は法三条二項の「製造場」にも該当しない。なお、日通根岸倉庫に移出された本件ストーブはいずれもフジカ川口工場における社内製品検査に合格したものである。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因1ないし3の事実及び被告の主張1の事実のうち、破産会社が昭和四八年四月一日付でフジカとの間において法別表(課税物品表)第二の物品、番号九、品目4に掲げるストーブに該当する物品につき売買基本契約を締結したこと、そしてその数量の点はともかくとして、右売買基本契約に基づき破産会社がフジカから買い受けたストーブには「AEROSELL」及び「AERO」という商標が表示されていることは当事者間に争いがない。
二 そこで、まず破産会社がフジカから右売買基本契約に基づき買い受けたストーブの製造について破産会社が法七条一項後段の商標表示を指示したことによる「みなし製造者(委託者等)」に該当するか否かについて検討する。
1 法七条一項後段は、第二種の物品の製造者または販売業者で当該物品に自己のみの商標を表示すべきことを指示してそれを製造させる者は、実際にはその製造者でないが、これを当該物品の製造者とみなして物品税の納税義務者としているが、右にいう「自己のみの商標を表示すべきことを指示」するとは、当該物品を他人が製造、販売する商品と区別するために当該物品は自己の販売する商品であることを一般に認識しうる「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」(商標法二条一項)を表示させることをいうものと解される。けだし、右規定の趣旨は当該物品に自己の商標を表示させてこれを販売する業者は、当該物品の製造や販売を支配しているというだけでなく、自らこれを製造して販売する業者と同様に販売経費等を含めて当該物品の価格を設定し、これを販売するのであるから、かような場合に商標の指示を受けた者を現実の製造者であるからといつて納税義務者とすると、右製造者は、販売経費等を含めた価格で取引をする通常の製造者に比し税負担が少なくてすむばかりでなく、商標指示者は現実に製造、販売を支配していながら、低廉な価格で商品を仕入れ、かつ販売できることになるという課税上の不公平が生ずるので、法七条一項前段の場合と同様にかかる不公平を防止するとともに右のような立場にある商標指示者に課税することにより徴税の確実を期し、併せて一般消費者の商品に対する認識と商標の識別力とを合致させることにあると解されるからである。従つて法七条一項後段にいう「自己のみの商標」とは、当該物品を現実に製造している者との関係で、商標指示者のみが使用する商標を指し、登録の有無を問わないのは勿論のこと、商標指示者の専用ではなく当該物品の現実の製造者以外の者と共有のあるいは共用できるものであつても差し支えなく、当該物品が他人の商品ではなく商標指示者の販売する商品であることを示す商標であれば、これに当たるものというべきである。
2 これを本件についてみると、
(一) いずれも成立(写の分は原本の存在、成立)に争いがない乙第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証、第二九五号証の二、三、同号証の五、第二九六号証の一三、一四、第二九九号証の二、第三〇〇号証の二、第三〇九号証、証人斧田一夫の証言により成立の認められる第五号証の一ないし三、第六、第七号証の各一、二、証人出井政勝の証言により被告主張の写真であることが認められる乙第八、第九号証、証人樋爪襄の証言により成立の認められる乙第二九三号証の一、弁論の全趣旨により成立(写の分は原本の存在、成立)の認められる乙第二九二号証の一、二、第二九五号証の一、同号証の四、同号証の六ないし九、第二九六号証の一ないし一二、第二九七、第二九八号証、第二九九号証の一、第三〇〇号証の一、同号証の三、四、証人別所清、同出井政勝、同田中毅の各証言を総合すると次の事実が認められる。
(1) 破産会社は、フジカとの間で石油ストーブの前示売買基本契約を締結する以前の昭和四七年ころからエアロマスターの製造したコイン・クーラー(一〇〇円硬貨を投入すると一時間位作動する方式のクーラー)をエアロ・セル・システムと称する販売方式で販売していた。その販売方式は、破産会社がエアロマスターからその製造したクーラーを買い取つてリース会社に売却し、リース会社はこれをほぼ都道府県ごとに設立されていた三二の地区代行店(フランチヤイジー)である各地エアロセルにリースし、各地エアロセルがこれを最終の需要者にリースし、その取付け工事やアフターサービスを行うというものであつた。そして、右商品の宣伝、広告や市場開拓等の販売促進業務及び各地エアロセルからの注文の取りまとめ等については、別に設立された日空販がこれを担当し、その代わり各地エアロセルは日空販に売上金額の一定割合を手数料として、破産会社は日空販に販売システム使用料として一定の金員をそれぞれ支払つていた。ただ、昭和四八年ころには、リース会社が取引を拒絶したために右エアロ・セル・システムは、破産会社が各地エアロセルに販売する方式(直売方式)によつて運用されていた。
(2) エアロマスターは、破産会社の代表取締役牛田正郎が代表取締役を務めた破産会社の機器製造部門ともいえる破産会社の子会社であり、日空販は破産会社との間で資本や役員、従業員の人事交流等の点で関係があるか否かは明らかではないが、事業目的及び営業の面においては前記のとおり破産会社の関連企業の一つであつた。また、「AEROSELL」という商標は、日空販の使用する商標であつたと窺えるところもあるが、破産会社の関連企業であれば、いずれの会社でもこれを自由に使用できたし、前示コイン・クーラーには右エアロ・セル・システムによつて販売される際右商標が使用されていた。
(3) 本件ストーブは、右エアロ・セル・システムの冬場の商品として開発され、販売されたのであるが、本件ストーブの前面には本件商標が表示されていたほか、本件ストーブの包装外面には「AEROSELL」の商標とともに破産会社の会社名が表示され(エアロマスター及び日空販の会社名の表示は一切ない。)、本件ストーブが販売される際、これに添付される「取扱説明書・注意書」及び「保証書」には破産会社の会社名のみが明記されているうえに、アフターサービスについては本件ストーブの販売店または破産会社機器販売本部に連絡するようにと記載され、消費者を対象としたアンケートの宛先も破産会社となつている。もつとも、本件ストーブを含むエアロ・セル・システムによつて販売する暖房機のパンフレツトには日空販の会社名が印刷されているが、その場合でも発売元としては破産会社の会社名が明記されている。
(4) 本件ストーブの販売に関しては、日空販は各地エアロセル会社からの注文の取りまとめをしただけで、破産会社が地区代行店である各地エアロセルとの間で直接取引を行い、各地エアロセルが一般消費者に販売、取付工事、アフターサービスを行い、その代金も各地エアロセルから破産会社に直接支払われていた。
なお各地エアロセルは前示のとおりエアロ・セル・システムの地区代行店ではあつたが、破産会社との間に同会社から、資本参加や役員、従業員の派遣等を受けるなどの密接な関係はなく、破産会社の取引先であつた。
以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右認定事実によれば、本件商標はいずれも、破産会社がエアロ・セル・システムを用いて本件ストーブを販売するために用いられた商標であると同時に本件ストーブが破産会社及びエアロマスターなどの関連会社が独占的に販売する商品であることを示すために表示された商標であると解される。そうすると「AEROSELL」が各地エアロセルの社標又は社名の構成部分であり、「AERO」がエアロマスターの社名の構成部分または商標であつたとしても、それらは破産会社の商標でもあり、本件ストーブに表示された本件商標は、破産会社の商標として使用されているから、その限りで破産会社にとつて法七条一項後段にいう「自己のみの商標」に該当するものといわなければならない。もつとも、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五号証によれば、本件ストーブはエアロマスターの製造、販売する商品として販売されたかのように窺わせる節もあるが、前掲第二九三号証の一、証人別所清の証言及びこれにより成立の認められる乙第四号証、証人田中毅の証言によれば、本件ストーブは当初エアロマスターにおいて製造、販売する計画であつたため、そのためのパンフレツト等が作成されたものの、その後、牛田の指示によつて前示のとおり破産会社の商品として発売することになつたものであることが認められるのであつて、甲第五号証をもつて本件ストーブが破産会社の商品として販売され、本件商標は本件ストーブが破産会社の販売する商品であることを示す商標であるとの前記認定を覆えすことはできない。
(二) 前掲乙第四号証、第五号証の一ないし三、第六、第七号証の各一、二、第一〇号証、第二九三号証の一、成立に争いがない乙第三〇六号証、いずれも被告主張の写真であることに争いがない乙第三〇四号証の一ないし四、第三〇五号証の一、二、証人斧田一夫、同別所清、同加藤君明の各証言によれば、
(1) 破産会社は、前示のとおり、昭和四七年ころから、エアロマスターの製造したコイン・クーラーをエアロ・セル・システムを使つて販売していたが、右製品に対応する冬場の商品として石油ストーブの販売を計画していたところ、破産会社及びエアロマスターの代表取締役牛田がフジカの代表取締役大野日佐太との間で協議したうえ、それをフジカで製造させることに決定し、昭和四八年四、五月ごろ、エアロマスター取締役・富士小山工場技術部長であつた別所清に命じてフジカに製造させる石油ストーブの技術面の検討をさせた。そこで別所はフジカの特注課長加藤君明と話合い、そのころフジカが製造、販売していた石油ストーブ「キレーネ」を改良して販売することとし、その後、技術面については別所とフジカの設計課長斧田一夫が、営業面については破産会社の機器販売本部長樋爪襄と加藤とがそれぞれ担当者として協議を行い、本件ストーブの開発とその価格、数量、納期等の売買に関する具体的事項とを決定した。
(2) 別所は、斧田を通じてフジカと「キレーネ」の改良する箇所を協議するとともに、エアロマスター富士小山工場において試作品を製造するなどして検討を重ねたすえ、昭和四八年八月ごろフジカに対し、本件ストーブの型式(HS―四〇一S)、名称(エアロヘルスヒーター)、本件商標等の表示位置及び「キレーネ」につき改良、変更する具体的箇所のほか、前示本件ストーブの取扱説明書・注意書、本件ストーブの包装用ダンボールのデザイン及びそれに印刷すべき事項等を指示した。もつとも、別所のフジカに対する右指示が、破産会社、エアロマスターいずれの会社の指示としてなされたものか明示されなかつたが、本件ストーブの売買に関する方針が具体化したころには、本件ストーブは破産会社の商品として発売することに決定し、昭和四八年九月二〇日ごろ、前示のとおり破産会社・フジカ間に本件ストーブについての売買契約が締結された(本件ストーブについての売買契約が破産会社・フジカ間で締結されたことは当事者間に争いがない。)。
(3) かくして本件ストーブは、フジカ川口工場において量産されたのであるが、本件ストーブと「キレーネ」とは外形自体は同一であるものの、前示の改良、変更の結果、<1>対流送風機及びそのフイルターの大きさ、<2>加湿器の形態及び取付け位置、<3>上面板のデザイン<4>ストーブ本体の色彩<5>銘板などの諸点について差異があつた。
以上の事実が認められ、これを覆えすに足る証拠はない。右認定事実に前示一及び二の2(一)で認定した各事実とを総合すると、別所がエアロマスターの役員兼従業員であり、同人に本件ストーブの開発を命じた牛田が破産会社の代表取締役であるとともにエアロマスターの代表取締役でもあつたことを考慮しても、破産会社がフジカに対し、本件ストーブに本件商標を表示するように指示してこれを製造させたものと認めることができる。なお、原告は破産会社がフジカに対し、本件ストーブに本件商標を表示させたことは、ある会社が業務宣伝又はサービスのために日本専売公社から大量の煙草を買い入れるに当たり煙草の外箱に自己の会社名を表示させるのと同様である旨主張するが、煙草は日本専売公社の専売品であつて本件ストーブの場合とは根本的に異なるほか前記認定のとおり本件ストーブは、フジカの製品に破産会社の商標を表示させただけのものではないから、右主張は採用の限りでない。
3 そうすると、破産会社は、本件ストーブの製造について法七条一項後段に規定するみなし製造者・委託者等に、フジカは受託者等にそれぞれ該当するものといわなければならない。
三 そこで次に本件ストーブの移出数量について検討する。
1 第二種の物品の製造者は、当該物品で、その製造にかかる製造場から移出されたものにつき物品税の納付義務を負う(法三条二項)が、その納税義務の成立時期は、当該物品が製造場から移出される時とされている(国税通則法一五条二項六号)。そして、ここに「移出」というのは、物品税が終局的には本来当該物品の消費に対して課税されるものであることや同種、大量の物品に対して課税されるため、その賦課、徴収につき技術性、外観性、形式性が要請されることからみて、原則として当該物品が移動される際の法律上の原因の有無を問わず、売買、贈与、交換等の法律行為がない場合でもあるいは民法の定める占有移転に該当するか否かには関係なく、当該物品がその製造される製造場から現実に搬出されるという事実行為をいうものと解される。
2 本件ストーブの製造は、フジカ川口工場において行われたことは前示二の2のとおりであるので、右工場のみが本件ストーブの法三条二項にいう製造場に該当するか否かはともかくとして、右工場から搬出された本件ストーブの数量を検討するに、
原本の存在、成立につき争いがない乙第三一〇号証の一ないし四、証人出井政勝の証言により成立(写の分は原本の存在、成立)の認められる乙第一四号証の一ないし七九、第一五ないし第二七六号証、第二七七号証の一ないし二五、第二九〇号証、第三〇七号証、証人田頭稔の証言により成立の認められる乙第三〇八号証、弁論の全趣旨により成立(写の分は原本の存在、成立)の認められる乙第二七八号証の一ないし一〇、第二七九号証の一ないし三、第二八〇号証の一ないし五、第二八一号証の一ないし四、第二八二号証の一ないし三、第二八三ないし第二八九号証、第二九一号証、証人出井政勝、同田頭稔の各証言によれば、フジカは破産会社との売買契約に基づき昭和四八年九月四日から昭和四九年五月一五日までの間に別表(二)の<1>欄記載のとおり合計二万一一五七個の本件ストーブを川口工場から同表移出先欄記載の各場所(ただし、昭和四九年三月八日の三個、同年四月一〇日の一〇八個のうちの四個については移出先が明らかでない。)宛にそれぞれ搬出したことが認められ、これに反する証拠はない。
3 そこで原告の各反論について検討する。
(一) 原告の反論1について
前掲乙第二九三号証の一、いずれも成立(写の分は原本の存在、成立)に争いがない乙第一(ただし、作成日を除く)、第二号証(乙第二九三号証の四、同号証の七と同じ。)、第三号証、第二九三号証の四、同号証の六ないし九四、第三〇一号証、証人樋爪襄の証言により成立の認められる乙第二九三号証の二、三、同号証の五、証人森口健、同鈴木正雄の各証言及び弁論の全趣旨によれば、破産会社・フジカ間の石油ストーブに関する最初の売買契約数量は合計二万個で、その完納期は昭和四八年一二月二〇日であつたが、フジカが右完納期までに納品したストーブの数量は約一万個でしかなかつたために、破産会社ではそれを同年一二月中に二万台全部が納品されたかのように扱つて、商品材料台帳や振替伝票を紛飾処理し、更にその後にフジカから納入される予定の約一万個の本件ストーブのことを考えて昭和四九年二月一〇日付で別途一万個の本件ストーブを買い受けたかのような売買契約を締結したことが認められ、これに反する証拠はない。従つて、破産会社・フジカ間の昭和四八年四月一日付売買基本契約に基づく石油ストーブの売買契約数量は、実質的には原告主張のとおり二万個であつたと認められる。しかしながら、本件ストーブの移出とは、前示のとおり、本件ストーブがその製造場から現実に搬出されたという事実行為を指すものであるから、契約数量が二万個であつても後記のとおり一旦移出したストーブをもどし入れた後再度搬出するなど何らかの理由で現実に搬出されたストーブがある場合には契約数量が二万個であつても、物品税の課税の対象となる物品の移出数量はそれを超えることもあるのであつて、契約数量を超える移出数量であることが直ちに違法な処分となるものではない。従つて、原告の右主張は採用しない。
(二) 同2について
右1で判示したように本件ストーブに対する物品税は、本件ストーブの製造場から移出されたものに課税されるのであるから、破産会社がフジカから民法の定める占有移転に則つた本件ストーブの引渡しを受けたか否か、当該契約が後日解除されたか否かということは、本件ストーブの移出数量を認定するうえに直接関係のない事項であつて、この点に関する原告の主張も採用できない。もつとも、一旦移出された物品が契約解除によつて当該物品の製造場にもどし入れられた場合には、二重課税を避けるために、納税義務者は法二八、二九条所定の手続をとることによつて納付した物品税額に相当する額の税額の控除又は還付を受けることができることになつている。しかし、原告主張の九五二六個のストーブについては、原本の存在、成立に争いがない甲第四号証により、破産会社とフジカ間の合意解除によつてフジカに引き渡されることになつたことは認められるものの、それらが製造場にもどし入れられたか否かは、本件全証拠によるも明らかではないし、仮に製造場にもどし入れられたとしても、破産会社が所定の期間内に右ストーブについて法二八、二九条の手続をとらなかつたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、被告が右九五二六個についての物品税等を控除せずに本件処分をしたからといつてその処分に何らの違法もない。何故ならば、一旦移出された物品については前示のとおり国税通則法一五条二項六号、法三条二項により、製造者はその移出された時に物品税の納税義務者となるのに、その後製造者が売買契約を解除し、当該物品を製造場にもどし入れたからといつて、一旦発生した納税義務が何ら法律上の規定もなしに当然消滅するとは物品税の賦課、徴収の技術性、外観性からみてまた法二八、二九条の規定に照らし到底解されないからである。
また、前掲乙第一〇号証の一、二、第一四号証の一ないし七九、第一五、第一六号証、第一七ないし第二七六号証、第二七七号証の一ないし二五、第三〇七、第三〇八号証、成立に争いがない乙第三〇二号証の一、二、証人加藤君明、同出井政勝、同田頭稔の各証言によれば、フジカ川口工場から搬出された前示二万一一五七個の石油ストーブはすべて破産会社の指示した本件商標が表示された名称エアロヘルスヒーター、型式HS―四〇一S型のものであつたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。かえつて、前掲乙第二九三号証の九、同号証の四〇ないし四二、同号証の四五、同号証の四八、同号証の五四、同号証の六〇、六一、同号証の七四ないし七六、第三〇二号証の一、二、成立に争いがない乙第三〇三号証によれば、フジカは破産会社からの注文により同会社に対し、「キレーネ」(型式FSE―四〇一AD型)三〇〇個を昭和四八年一〇月末ごろ納品したことが認められるが、他方フジカが破産会社に「キレーネ」を取引上の商品として納品したのはこの三〇〇個だけであり、しかも被告が本件処分の対象としたストーブの中には昭和四八年一〇月に移出されたものは一個もないことも認められることからすると、本件ストーブの中には「キレーネ」は一個もなかつたものと認められる。
(三) 同3について
前掲乙第一四号証の二、第一七ないし第八四号証、第二九五、第二九六号証の各一、第三〇七号証、証人出井政勝、同加藤君明の各証言によれば、昭和四八年九月四日から一八日までの間に、フジカは破産会社の指示に従つて、各地エアロセル等宛に本件ストーブを各一個ないし二個合計九二個送り出し、破産会社ではそれを右各地エアロセル等に見本品として無償で供与していたことが窺えるものの、第二種の物品で見本品として法の適用除外となるものは法一〇条に規定するとおり「見本品として無償で供陰されるもの(見本用にのみ適すると認められるものに限る。)」であつて、例えば、見本専用品として製造されたものや市販品として製造されたものであれば、当該物品が見本品であることを容易に除去できない方法によつて明確に表示されたものをいうと解されるところ、右九二個のストーブはいずれも見本品としての表示を欠く市販品と同様の物品であつたことが認められるので、これら物品は、見本品として法一〇条二項により法の適用除外となるものではないものといわなければならない。
また、前掲乙第一四号証の二、第二八二号証の一ないし三、第三〇六ないし第三〇八号証、弁論の全趣旨により原本の存在、成立の認められる甲第八号証の一ないし一三、証人斧田一夫、同出井政勝、同田頭稔の各証言によれば、フジカ川口工場から搬出された本件ストーブの中には上面板取付未了のもの九七四個があり、それらは昭和四九年二月五日から同月八日までの間に日通根岸倉庫に入庫され、同倉庫内において上面板の取付け作業が行われたことが認められるが、他方本件ストーブの上面板はストーブ本体の蓋状のもので、それがないとストーブの美感を欠くことはあつてもその機能や安全性に支障が生ずるわけではなく、従つて、フジカ川口工場において行われるストーブとしての製品検査も上面板の取付け前の段階で行われること、上面板の取付け作業はドライバーでビス四本を締めるだけの簡単なものであることが認められ(これに反する証拠はない。)、右認定事実によれば、上面板取付け未了の本件ストーブも、法の規定する第二種物品のストーブに当たるといえるから、かかる物品の本体(付属品等には課税されていない。)が搬出された以上は、上面板が欠落しているというだけで、課税の対象となる物品に該当しないということはできないものというべきである(課税物品に欠陥がある場合の課税標準額については後記四に判示するとおりである。)。なお、前掲乙第一四号証の四ないし七九、証人田頭稔の証言によれば、フジカ川口工場における本件ストーブの生産過程で、右のような上面板取付け未済の製品のほかに外筒、ボツクス等の部分がなかつたためにそれらを欠く製品が製造されたことのあつたことが認められるが、上面板以外の部品の取付け未済の製品がそのままの状態で川口工場から搬出されたことはなかつたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。
(四) 同4について
前掲乙第一六号証、第二七七号証の一ないし二五、証人田頭稔、同森口健、同鈴木正雄の各証言によれば、フジカ川口工場で製造された本件ストーブの中には不良品が相当数あり、これらが修繕のため同工場にもどし入れられて修繕され、更生品として昭和四九年四月四日から五月一五日までの間に合計一五五八個同工場から搬出されたことが認められ、これに反する証拠はない。
ところで、現行の法一〇条三項三号によれば「修繕のためその製造に係る製造場にもどし入れられた物品」については法の適用がない旨規定され、右物品の製造者は右物品に関する記帳義務等が課される(法三六条)のみで特別の法的手続をとるまでもなく、再移出する際納税義務を負わないことになつている。しかし、右一五五八個のストーブが搬出された当時施行されていた改正前の法一〇条二項三号では「修繕のためその製造に係る製造場にもどし入れられた物品で、そのもどし入れの際修繕を要するものであることにつき当該製造場の所在地の所轄税務署長の確認を受けたものについては物品税法の適用がない。」旨規定されていた。従つて、右一五五八個のストーブについては改正前の法律が適用されるところ、破産会社が右ストーブのもどし入れの際、所轄税務署長である被告の確認を受けなかつたことは弁論の全趣旨により明らかである。そこで、修繕のためにもどし入れられた物品につき、もどし入れの際右確認を受けなかつた場合には、法二八、二九条所定の手続を経ることによつて税額の控除もしくは還付を受けることができる余地はあるとしても、それらの物品は、当然に適用除外物品とはならないのか問題であるが、法は右確認手続の履践を単なる注意的なものとして規定しているとは物品税法の性格からして到底解し得ないから、右確認を受けることは、当該物品が法の適用除外となるため一つの要件として規定されていたものと解さざるを得ない。そうすると、右確認を受けなかつた一五五八個のストーブのもどし入れについては、改正前法一〇条三項三号の適用除外物品の規定は適用されないものといわなければならない。
もつとも、右のとおり、右一五五八個のストーブについても法二八、二九条の適用があるから、法所定の手続をとることによつて、破産会社は税額の控除を受けることもできるが、破産会社は右手続を行わなかつたことは前示のとおりであるから、被告が右もどし入れの事実を考慮して本件処分を行うことは物品税法上できないものというべきである。けだし、法二八、二九条の規定は、物品税の賦課及び徴収の複雑性・技術性、外観性・形式性に鑑みあくまでも納税義務者が所定期間内に所定の申告を行つた場合にのみ適用されるものと解するのが相当であるからである。従つて、右一五五八個のストーブについては、少なくとも課税処分を取り消すという形での救済はできず、その結果実質上二重に課税されることになるが、右の趣旨からしてやむを得ないものと言わざるを得ない。
(五) 同5について
原告主張の六二八四個を含む本件ストーブ二万一一五七個がフジカ川口工場から搬出されたことは前示2のとおりである。そして、法七条四項の当該製造者の責めに帰することのできない移出とは、当該課税物品の製造者が製造した物品を他人に盗取されたり、法七条一項後段の場合にあつては、商標指示者(委託者等)であるみなし製造者が、課税物品を商標指示を受けた者(受託者等)に使用もしくは消費されまたは販売の目的で移出されたりする如く当該使用、消費または移出が諸般の事情からみてみなし製造者の責めに帰するものとするのが相当でない場合を言うものと解されるから、たとえ当該物品がみなし製造者の認識しなかつた時点に搬出されたとしても、それが当該みなし製造者への当該物品引渡しの一環としてなされたような場合には法七条四項の規定は適用されず、当該みなし製造者が納税義務を負うものと解される。
これを本件についてみると、前示2のとおりフジカ川口工場から合計二万一一五七個の本件ストーブが別表(二)の移出先欄記載のとおりの各場所へ搬出された。しかし、前掲乙第二、第三号証、第二七八号証の一ないし一〇、第二七九号証の一ないし三、第二八〇号証の一ないし五、第二八一号証の一ないし四、第二八二号証の一ないし三、第二八三ないし第二八九号証、証人出井政勝、同森口健(ただし、後記措信しない部分を除く)の各証言によれば、右ストーブのうち一万四八七三個については、同表<2>欄記載のとおり各地エアロセル等破産会社の取引先及び破産会社が寄託契約を締結していた辰巳倉庫株式会社の各営業所へ入庫されたものの、残りの六二八四個のうち少なくとも五九八五個については、いずれもフジカが寄託を依頼していた岡葉倉庫へ二四五七個、日本通運株式会社川口支店へ八六個、同根岸倉庫へ九七四個、同丸山倉庫へ三〇七個、日本運輸荷造株式会社鳩ケ谷倉庫へ一〇八個、株式会社信興川口倉庫へ一二二八個、三信倉庫株式会社浦和営業所へ八二五個それぞれ入庫させたこと、破産会社に対する本件ストーブの受渡場所はフジカの指定倉庫あるいはフジカ川口工場であつたところ、川口工場は、本件ストーブの完成品を保管できる場所として三〇〇個分位しか余裕がなかつたため、フジカでは本件ストーブの保管場所を確保するために同会社の契約した右各倉庫にこれらを搬出していたこと、フジカが右ストーブを右各倉庫へ搬出したのは、あくまでも破産会社との間の契約上の義務を履行すべく一時保管していたにすぎず、右ストーブのうち少なくとも岡葉倉庫に入庫していた分については破産会社へも連絡していたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人森口健の供述は曖昧であつて容易に措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定事実によると、原告主張の五九八五個のストーブについては、破産会社がそのすべてについてフジカ川口工場から搬出された事実や保管されている倉庫を認識していたわけではないが、右ストーブが破産会社との契約上の義務を履行する一環として右各倉庫に搬出されたものと認められ、かかる搬出が破産会社の予期に特別反するものとは到底考えられないから、ストーブのフジカ工場からの右搬出が破産会社の責めに帰することのできないものであるとは解されず、右搬出は、法七条四項に該当するものとはいえないものというべきである。
(六) 同6について
前示(三)のとおり、フジカ川口工場から搬出され、日通根岸倉庫に入庫された九七四個のストーブについては、同倉庫において上面板の取付け作業が行われたが、右取付けは本件ストーブとしての構造、機能、用途を新たに付与してストーブを作り出す行為とはいえないから法の規定する「製造」に当たらないし、右倉庫は勿論、その他前記フジカの契約した倉庫についても法一七条一項五号に規定する所轄税務署長の承認があつたと認める証拠はない。
以上のとおりであるから、本件ストーブの製造については、フジカ川口工場のみが製造場であり、同工場から搬出された合計二万一一五七個のストーブすべてが、国税通則法一五条二項六号、法三条二項の「移出されたもの」に当たるものといわなければならない。
四 本件ストーブの課税標準について検討する。
第二種物品の課税標準は、同物品が種々の取引関係の中で、いろいろな取引段階を経て消費者に到達するのが通例であり、しかもその取引の際の数量や価格もいろいろであるので、その適正を期するため法一一条一項二号は、課税標準額を製造者が当該物品を移出する時において通常の卸取引数量によつて、通常の卸取引形態で製造者と自由な取引関係にあるあらゆる購入者に対して販売のため提供するものとした場合の当該物品の販売価格(これを「通卸価格」という。)に相当する金額と規定している。そして、物品税法施行令八条は、この点について当該移出時に販売価格が確定している場合には、通常の卸取引先に販売する物品にかかる課税標準額はその価格から物品税額に相当する金額を除いた金額とする旨定めている。従つて、本件の場合、みなし製造者である破産会社が前示二の2(一)のとおり通常の卸取引先である各地エアロセル等に対し販売する場合の本件ストーブの確定した販売価格からその物品税額に相当する金額を控除した金額が本件ストーブの課税標準の額となり、右販売価格を基礎に算定すべきではないと認めるに足る事情につき立証がない。そうすると、本件ストーブの課税標準額の算定にあたつては、破産会社が販売したストーブの中に不良品があり、それらについては、確定した販売価格に相当するだけの価値がなかつたとか、右販売価格では本件ストーブの仕入価格や販売経費を控除すると破産会社に全く利益が残らないとかの事情は考慮されないものというべきである。しかして前掲乙二九三号証の一、同号証の一〇ないし九四、第二九五号証の一ないし五、第二九六号証の一ないし一二、第二九八号証、原本の存在成立に争いがない乙第二九四号証の三、いずれも弁論の全趣旨により、原本の存在、成立が認められる甲第一二号証、第一三、第一四号証の各一、二によれば本件ストーブのフジカから破産会社に対する販売価格は一個当たり金二万八五〇〇円で破産会社の通常の取引先である各地エアロセル等に対する販売価格は一個当たり金三万五八八〇円であつたことが認められ、これを覆えすに足る証拠はない(破産会社の各地エアロセルに対する本件ストーブの仕切価格が金三万四八〇〇円であつたとの原告の主張を認めるに足る証拠はない。)。従つて、右金三万五八八〇円が本件ストーブの通卸価格と解されるから、その中に税率一五パーセント(法別表第二種の物品、番号九、品目4の税率)の物品税が含まれているものとして算定すると、本件ストーブの課税標準額は一個当たり金三万一二〇〇円となるのでこの点についての被告の決定に違法はない。
なお、原告は、フジカの破産会社に対する本件ストーブの納品価格と売買契約上の販売価格等からして、本件ストーブの物品税はフジカが負担するとの合意が成立していた旨主張するが、これを認める証拠はない(これに副う証人森口健、同鈴木正雄の各供述は確たる資料に基づくものではなく曖昧であつて措信できない。)し、仮にかような契約が存在しても、二で判示したとおりみなし製造者が移出した物品については、当該物品が移出された時に当該みなし製造者に物品税の納付義務が生じるのであつて、みなし製造者が受託者との間で当該物品の売買代金を課税標準額として物品税額を算定し、その額と売買代金の合算額を受託者に支払う旨の契約をしたからといつて納税義務者や課税標準額が変るものではないから、原告のこの点に関する主張も採用の限りでない。
五 以上によれば、破産会社は、本件ストーブについて法七条一項後段の製造者とみなされ、法三条二項により本件ストーブの製造場であるフジカ川口工場から移出された合計二万一一五七個(一個当たりの課税標準額金三万一二〇〇円)の本件ストーブに係る物品税の納税義務者に当たるから、本件処分には原告が主張する納税義務者、移出数量、課税標準額を誤つた違法は認められず、破産会社の破産管財人である原告に対してなした本件処分は適法である。
六 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高山晨 野田武明 友田和昭)
別表(一)(二)<省略>